神経生化学

スタッフ

教授 尾藤 晴彦

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研究概要

神経生化学教室では、脳機能の分子的実体としての化学反応の解明を目指しています。ニューロンは、他の細胞と違わずATPをエネルギー源としていますが、この化学ポテンシャルがどのように利用され、その結果、100億~1000億の神経細胞が、いかに一つの「脳」として統合され、個体が外界の刺激・環境変化に適応・対応してための器官として機能しているかを解き明かそうとしているのです。

記憶・学習を含め、様々な脳高次機能の基盤には、特異的な入・出力関係を保持する神経回路網が存在しています。このニューラル・ネットワークは決して静的な神経細胞集団ではなく、神経細胞間、あるいは神経細胞内の多種多様なシグナル伝達機構によってダイナミックに変貌を遂げることが20世紀後半に明らかになりました。すなわち中枢神経系を構築しているニューラル・ネットワークには、2つの普遍的な特徴があります。一つは、一定のプログラミングによって、普遍的に神経細胞同士が結合し、機能的なシステムを作り上げる「設計図」とそれを間違えずに読み出す、厳格な「文法」の存在です。もう一つは、個体ごとに内部・外部の環境の変化に刻一刻と対応できる「適応性・順応性」の存在と、過去の経験の記憶に基づき応答を修飾していく内在的な「学習能力」が備わっていることです。

このように「剛」と「柔」の特性を兼ね備える神経回路網を支えているシグナル伝達機構は、神経細胞特有の電気的シグナルと、すべての細胞に普遍的な化学的シグナルの密接な絡み合いから成り立っていることを、我々を含む多くのグループが解明してきました。我々は現在、初代培養神経細胞のシステムを手がかりに、このような一つ一つのシグナルを同定し、その作動原理を明らかにすることを試みています。特に、神経可塑性の研究を中核に据え、取り組んでいます。神経は、入力する刺激の量やパターンに応じ、シナプスの応答性や形態・構造を変化させて、学習などの機能に対応していると考えられています。このような神経可塑性が細胞内のどのような神経伝達により引き起こされるかを、激しく、楽しく、明るく、研究しています。

研究項目

長期記憶の神経回路・分子基盤の解明と記憶操作法の開発

長期記憶や長期可塑性の成立には、シナプス入力が引き金となる遺伝子発現誘導と、転写・翻訳された新規遺伝子産物のシナプスへの再分配が必要です。このような神経情報処理のコア経路としてNMDA受容体-CaMKIV-CREB-Arcシグナル解明を進める中で発見した、Arc promoterのシナプス活動応答性エレメントSAREを強化した人工プロモーターE-SAREを創出しました。現在、E-SARE技術とオプトジェネティクスを組み合わせ、記憶痕跡の解析と人工的な記憶の操作に取組むとともに、分子基盤についても研究を進め、記憶・行動制御を司る神経細胞アンサンブルの全貌解明に挑戦しています。

神経回路形成機構、神経回路の動作原理の解明

可塑的な情報変換を過不足なく実行可能な神経回路形成・シナプス形成を支配するルールは何か。これを明らかにするため、回路構築・シナプス形成に至るまでの突起形成・伸展過程・細胞移動やシナプス形成過程における神経活動、Ca2+動態の解明を行っています。また、形成された神経回路の機能を明らかにするために、二光子励起顕微鏡を用いた生体脳における神経活動イメージングを行うとともに、新たな原理に基づく神経活動イメージング法の開発も行っています。

 

階層的な脳内生化学システムの解明

神経機能の素過程となる個々のシナプスから樹状突起、神経細胞、神経回路までの様々な階層での生化学反応を生きたシステムで記録・操作し、脳システムを理解することを目指して、可塑性シグナリングに対する様々な新規蛍光プローブの開発を行っています。これらを用いて樹状突起やシナプスでの生化学的な演算過程の解明や、疾患における生化学シグナリングの破綻の解明に取り組んでいます。こうした生化学的知見に触発され、超高速・超高感度・多色Ca2+インディケーターを合理的に設計・開発し、神経活動およびCa2+シグナリングのイメージングを推進しています。また、神経細胞におけるゲノム編集法、ケミカルバイオロジー、オプトジェネティクス、超解像顕微鏡、新たな画像処理法などの手法を導入し、シナプスから神経回路レベルまでの様々な時間的・空間的スケールを横断的に解明する、革命的な生化学的アプローチの創出を目指しています。

 

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