こころの発達医学
スタッフ
| 教授 | 小池 進介 |
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研究概要
こころの発達医学は、児童・思春期精神医学を基礎とした臨床研究分野です。自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)をはじめとした発達障害、という言葉は皆さんも聞いたことがあると思います。発達障害はその名の通り、一般的な脳神経の発達からのずれによって、多くの人とは異なる思考や行動のパターンとして現れ、日常生活に困難を感じる障害の総称です。そのため、発達障害を理解するには、一般の脳神経発達や、それに伴う思考や行動の発達パターンを知る必要があります。また、社会は多くの人が過ごしやすいようにルールが構築されています。発達障害を見るとき、多くの人からのずれ、という生物学的、心理学的な視点だけでなく、本人のまわりにとりまく社会環境に焦点を当てることも重要です。
当教室は、児童精神科臨床部門を祖として、2010年に児童・思春期の精神医学研究を行う日本で初めての講座として設立しました。臨床における児童精神科のニーズは増加の一歩をたどっていますが、研究においても日本におけるエビデンスは圧倒的に不足しています。発達障害が、社会背景および歴史的変遷によって変化しており、なにをもって「発達障害」とラベルするのかは一層困難となっています。研究成果を発信し続けることは喫緊の課題です。
発達障害・精神疾患の生物学的研究も重要です。脳画像から客観的に比較検討できるバイオマーカーの開発が求められており、またそこから治療法の開発が期待されています。そのためには、そもそもヒト脳が、いつ、どのように変化していくのか、という基礎的な視点に立ち返る必要があります。そのうえで、発達障害・精神疾患を持つ人の脳がどのように異なるのか、それが思考や行動に関係するのか、と拡げていく必要があります。
研究項目
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当教室の活動は大きく分けて、臨床研究領域、脳画像解析領域、スティグマ領域があります。いずれの領域においても、ライフコースにわたる変化と、その中での発達障害を含めた精神神経疾患に着目して研究を進めています。当教室では、これまで教養学部で運営されてきた脳画像研究チームと医学部こころの発達医学分野の混成で、non-MDが約半数、女性が半数という、バラエティに富んだ人達で構成されています。正規の研究員、大学院生だけでなく、継続的に参加している学部学生にも、学会発表や論文執筆の機会を提供しています(Shi et al., 2024; Sone et al., 2022)。
- こころの発達診療部における長期追跡研究 こころの発達診療部では、長年にわたり包括的な診療情報を系統的に集積しており、さらに、これまで来院されたことのある患者さんに追跡調査を依頼しています。ある発達段階で見られた障害特性が、その後の心理社会学的転帰にどういった影響があるのか、検討を行っています。
- ライフコースにわたる脳発達・加齢変化と発達障害・精神疾患 当教室ではこれまで、国内外における精神神経疾患の脳MRIデータを大規模に解析し、発達障害を含めた疾患横断検討、機械学習等を行っています。近年では特に、ライフコースにわたる脳発達・加齢について検討し、そのうえで発達障害・精神疾患の脳画像を見る、というアプローチを進めています。脳MRI研究は様々な専門領域に分かれており、脳MRIからいかに必要な情報を得るかという脳画像解析学、抽出された情報から発達障害・精神疾患の違いを検討する統計学、数理科学などがあります。また、この脳MRIデータと全ゲノム解析、網羅的エピゲノム解析を結び付けて、そもそもなぜ脳は発達し、委縮するのか、という検討も行っています。
- 発達障害・精神疾患へのスティグマ スティグマとは簡潔に言うと偏見、差別のことで、より正確に言えば、偏見、差別だけでなく、それによって人々の行動を変化させることまでを指します。発達障害、精神疾患当事者へのスティグマが存在する、というある意味自明と思われたテーマですが、このこと自体に偏見が隠れています。発達障害・精神疾患へのスティグマという誰もがイメージしやすいテーマについて、どこにスティグマがあるのか、そもそもなぜヒトは特定の対象について偏見や差別を持つのか、という点について心理統計学的に検討を進めています。
Publication list
- Tatematsu D, et al. Psychological distress among Japanese high school students during the COVID-19 pandemic: An energy landscape analysis. PLOS Med 2026;23(1):e1004884.
- Koike S, et al. Beyond case-control study in neuroimaging for psychiatric disorders: Harmonizing and utilizing the brain images from multiple sites. Neurosci Biobehav R 2025;171:106063.
- Yamaguchi S, et al. Contact experiences of adolescents and family members are associated with decrease of personal stigma but increase of perceived stigma. J Adolesc 2025;97(6):1569-80.
- Zhu Y, et al. Using brain structural neuroimaging measures to predict psychosis onset for individuals at clinical high-risk. Mol Psychiatry 2024;29(5):1465-77.
- Shibukawa S, et al. Alterations in subcortical magnetic susceptibility and disease-specific relationship with brain volume in major depressive disorder and schizophrenia. Transl Psychiatry 2024;14(1):164.
- Shi J and Koike S: Human brain magnetic resonance imaging studies for psychiatric disorders: The current progress and future directions. JMA J 2024;7(2):197-204.
- Cai L, et al. Hippocampal structures among Japanese adolescents before and after the COVID-19 pandemic. JAMA Netw Open 2024;7(2):e2355292.
- Sone M, et al. Structural brain abnormalities in schizophrenia patients with a history and presence of auditory verbal hallucination. Transl Psychiatry 2022;12(1):551.
- Kuroda M, et al. Preliminary efficacy of cognitive-behavioral therapy on emotion regulation in adults with autism spectrum disorder: A pilot randomized waitlist-controlled study. PLoS One 2022;17(11):e0277398.
- Eriguchi Y, et al. A 2-year longitudinal follow-up of quantitative assessment neck tics in Tourette's syndrome. PLoS One 2021;16(12):e0261560.
連絡先
c-koike@g.ecc.u-tokyo.ac.jp
